はじめに——きっかけは一枚の写真だった
私が「大久野島の水やりボランティア」を知ったのは、SNSで流れてきた一枚の写真がきっかけでした。カラカラに乾いた水入れの前で、口をパクパクさせているうさぎの姿。その写真に添えられた「この子たちは、誰かが水を運ばなければ、脱水で死んでしまうかもしれません」という言葉が、胸に突き刺さりました。
大久野島には水道が限られたエリアにしかなく、島中に暮らす約500〜600羽のうさぎたちすべてに水が行き渡っているわけではありません。特に夏場は深刻で、水不足で命を落とすうさぎもいると聞きます。
「自分にも何かできることがあるなら、やってみたい」。そう思い立ち、私は初めての水やりボランティアに向かうことにしました。
忠海港での準備——5リットルの水をリュックに詰めて
前日の買い出し
ボランティア前日、近所のドラッグストアで2リットルのペットボトルを2本と、500mlを2本購入しました。合計5リットル。正直、たった5リットルで何ができるのだろうという不安もありましたが、「1羽のうさぎが1日に必要な水は約50〜100ml。5リットルあれば、50羽以上のうさぎを救えるかもしれない」と自分に言い聞かせました。
リュックサックに水を詰めると、ずっしりとした重さが肩にのしかかります。5キログラム。これを背負って島内を歩き回るのは、なかなかの運動になりそうです。
忠海港到着
朝8時過ぎ、JR忠海駅に到着しました。駅から忠海港までは徒歩約5分。小さな港町の朝は静かで、潮の香りが鼻をくすぐります。フェリー乗り場の待合室で切符を買い、出航を待ちます。
待合室には、同じように大きなリュックを背負った人が何人かいました。もしかしたら、同じ目的の人かもしれない。そう思うと、少し心強くなりました。
フェリーの上で——期待と緊張の15分間
フェリーに乗り込むと、デッキに出て海を眺めました。瀬戸内海の穏やかな水面がキラキラと光り、遠くに大久野島の緑が見えてきます。わずか15分の船旅ですが、この日ばかりはとても長く感じました。
「ちゃんと水を届けられるだろうか」「うさぎたちは元気だろうか」。期待と緊張が入り混じった気持ちで、リュックの紐をぎゅっと握りしめていました。
島が近づくにつれ、桟橋の近くにうさぎの姿がちらほらと見えてきます。あの子たちのために水を運んでいるのだと思うと、リュックの重さが少しだけ軽く感じました。
島到着——SOSマップで水不足ポイントを確認
まずはスマートフォンでSOSマップを開く
大久野島に到着してすぐ、スマートフォンでSOSマップを開きました。このマップには、島内の水入れの設置場所と、水が不足しているポイントがリアルタイムで表示されています。赤いピンが立っている場所は「水が空になっている」または「残り少ない」場所です。
この日、赤いピンは島の南側と東側に集中していました。フェリー乗り場や休暇村周辺は観光客が多いため比較的水が補充されやすいのですが、島の反対側は人が少なく、水入れが空のまま放置されていることが多いのです。
ルートを決める
SOSマップを見ながら、効率よく回れるルートを考えました。フェリー乗り場から時計回りに島の南側を進み、東側の水不足ポイントを重点的に回って、北側から休暇村に戻るルートに決定。全行程は約3〜4キロメートル。5リットルの水を背負っての道のりですが、うさぎたちのためなら頑張れます。
水を配って回る——うさぎたちの反応に胸が熱くなる
最初の水入れ——南側の草むらの奥
島の南側の遊歩道を10分ほど歩いたところに、最初の水入れがありました。案の定、完全に空っぽです。周囲には3羽のうさぎがいて、日陰でじっとうずくまっていました。
ペットボトルの水を水入れに注ぐと、チャポチャポという水音にうさぎたちが反応しました。耳をピンと立てて、こちらを見ています。水を入れ終わるか終わらないかのうちに、1羽が駆け寄ってきて、夢中で水を飲み始めました。続いて2羽目、3羽目。小さな舌で一生懸命に水を舐める姿を見て、目頭が熱くなりました。
この子たちは、どのくらいの間、水を飲めていなかったのだろう。そう考えると、5リットルという量の重みを改めて実感しました。
東側の高台——最も水が届きにくい場所
次に向かったのは、島の東側にある高台のポイントです。ここは観光客がほとんど足を踏み入れないエリアで、SOSマップでも常に赤いピンが立っている場所でした。坂道をリュックを背負って登るのは、息が上がるほどのきつさでしたが、「この先にうさぎが待っている」と思うと足が止まりません。
高台の水入れに到着すると、周囲に5羽ほどのうさぎがいました。水を注ぎ始めた途端、茂みの中からさらに数羽が飛び出してきて、あっという間に10羽近くのうさぎが水入れの周りに集まりました。
その光景は衝撃的でした。普段、観光エリアでは人に甘えるように寄ってくるうさぎたちですが、ここでは水を求めて必死の形相で集まってくるのです。押し合いへし合いしながら水を飲むうさぎたちの姿は、「可愛い」という感情を超えて、命の切実さを突きつけてくるものでした。
子うさぎとの出会い
3番目の水入れに向かう途中、道端で小さな子うさぎに出会いました。手のひらに乗りそうなほどの小さな体で、ぐったりとうずくまっています。近づいてみると、口元が乾いているように見えました。
ペットボトルのキャップに少量の水を入れて、そっと差し出してみました。最初は警戒していた子うさぎが、やがて恐る恐るキャップに鼻を近づけ、チロチロと水を舐め始めました。何度かキャップの水を補充して飲ませるうちに、少しずつ元気を取り戻したようで、最後には小さくぴょんと跳ねて茂みの中に戻っていきました。
あの子うさぎが元気に育ってくれますように。そう願わずにはいられませんでした。
活動を終えて——空っぽのペットボトルと満たされた心
5リットル、すべて使い切る
約2時間かけて島内を回り、持ってきた5リットルの水をすべて配り終えました。空になったペットボトルを見ると、達成感が胸に広がりました。合計で7か所の水入れに水を補充し、途中で出会ったうさぎにも直接水を飲ませることができました。
リュックは行きとは比べものにならないほど軽くなりました。でも、心はずっしりと重い充実感で満たされています。たった5リットルの水。でも、それで何十羽ものうさぎが水を飲めた。命を繋げた。そう思うと、5キロの重さを背負って歩いた疲れなど、どうでもよくなりました。
休暇村で一休み
活動後、休暇村のレストランで遅めの昼食をとりました。窓の外では、芝生の上でのんびりと過ごすうさぎたちの姿が見えます。さっき水を届けたエリアのうさぎたちも、今頃は水を飲んで一息ついているだろうか。そんなことを考えながら食べるカレーライスは、格別な味でした。
次回への決意——一人でも多くの人に伝えたい
5リットルで救える命がある
今回の体験を通じて、強く感じたことがあります。大久野島のうさぎたちは、人間が持ち込んだ動物の子孫です。この島で暮らしているのは、彼ら自身が選んだわけではありません。だからこそ、私たち人間には彼らの命を守る責任があるのではないでしょうか。
5リットルの水は、コンビニで買えば数百円。重さは5キログラム。それだけで、50羽以上のうさぎに水を届けることができるのです。特別な資格も技術も必要ありません。ただ、水を持って島を歩く。それだけでいいのです。
次回はもっと準備して
次回は10リットルの水を持っていこうと思っています。そして、友人も誘ってみるつもりです。一人で運べる水の量には限界がありますが、二人なら倍になる。三人なら三倍になる。もし島を訪れる観光客の一割でも、ペットボトル1本の水を余分に持ってきてくれたら、うさぎたちの水問題はかなり改善されるはずです。
あなたにもできること
この記事を読んでくださっているあなたにも、ぜひお願いしたいことがあります。大久野島を訪れる際は、ペットボトル1本でもいいので、うさぎたちのための水を持参してください。そして、SOSマップを開いて、水が不足しているポイントに水を届けてください。
うさぎたちのキラキラした目で水を飲む姿を見たら、きっとあなたも「また来よう」と思うはずです。私がそうだったように。
おわりに
帰りのフェリーの中で、デッキから大久野島を振り返りました。緑に覆われた小さな島が、夕日に照らされてオレンジ色に輝いています。あの島のどこかで、今日私が運んだ水を飲んだうさぎたちが、穏やかに過ごしていることを祈りました。
5リットルの水で救える命がある。この事実を、一人でも多くの人に知ってもらいたい。そして、一人でも多くの人が大久野島に水を届けてくれることを願って、この体験記を書きました。
次の休日、あなたもリュックに水を詰めて、大久野島に行ってみませんか?
大久野島を訪れたら、SOSマップを開いて
水が足りないエリアを確認し、水やり報告をしてください。
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