大久野島のうさぎを誰が守るのか——環境省・竹原市・ボランティア、それぞれの立場と矛盾

「うさぎの楽園」は本当に楽園なのか?

大久野島は「うさぎの楽園」と呼ばれ、年間数十万人の観光客が訪れます。しかし、この島のうさぎたちが本当に「楽園」で暮らしているのかと問えば、答えは明確に「NO」です。

この記事では、大久野島のうさぎを取り巻く現状を整理し、誰がうさぎの保護を担うべきか、そして絶対に避けなければならない最悪のシナリオについて考えます。

2024-2025年——99匹の命が奪われた虐殺事件

2024年11月下旬から2025年1月にかけて、大久野島で99匹ものうさぎが不審な死を遂げました。脚の骨折、口や鼻からの出血など、明らかに不自然な状態で発見された個体が複数ありました。

この事件を解決したのは、行政でも警察でもなく、20年以上島に通い続けるうさぎ写真家utaこと中村夫妻でした。中村さんはX(旧Twitter)で速報を発信しながら犯人を現行犯で取り押さえ、警察に引き渡しました。この執念の追跡劇はメディアでも大きく報じられました

2025年4月、広島地裁呉支部は犯人に懲役1年・執行猶予3年の判決を言い渡しました。99匹もの命が奪われたにも関わらず、執行猶予付きという判決に、多くの動物愛護家や法律専門家から「軽すぎる」という声が上がっています。

竹原市は事件後にようやく2〜3台の防犯カメラの増設を表明しましたが、それは99匹の命が失われた後のことでした。

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法律が示す明確な答え——うさぎは「愛護動物」である

大久野島のうさぎをめぐって、「野生動物なのか、家畜なのか」という議論があります。環境省は「半野生化した状態」という曖昧な表現を使っていますが、動物愛護管理法の条文は明確な答えを示しています

動物愛護管理法 第44条第4項の規定

法律は「愛護動物」を定義しており、その中に「いえうさぎ」(カイウサギ)が含まれています。そして重要なのは、いえうさぎは飼い主の有無に関わらず愛護動物とされている点です。

つまり、大久野島のうさぎは——野生化していようと、飼い主がいなかろうと——法律上は常に愛護動物です。

これが意味すること

  • 愛護動物を殺傷すると5年以下の懲役 or 500万円以下の罰金
  • 愛護動物に水や餌を与えず放置するネグレクト虐待に該当(1年以下の懲役 or 100万円以下の罰金)
  • 愛護動物の遺棄も犯罪(1年以下の懲役 or 100万円以下の罰金)
  • そして——愛護動物を「外来種」として駆除することは、この法律に抵触する可能性がある

この法的事実は、大久野島のうさぎの未来を考える上で最も重要な前提です。駆除という選択肢は、法律上も、倫理上も、そして経済的にも、取り得ないのです。

絶対に避けなければならないシナリオ——「駆除」の危険性

環境省は過去に、奄美大島で野生化した猫(ノネコ)を「外来種」として捕獲・駆除する政策を実施しました。大久野島のうさぎも「人間が持ち込んだ外来種」として同じ論理が適用される危険性がゼロではありません。

しかし、以下の理由から駆除は絶対に許されません

  • 法的根拠:カイウサギは動物愛護管理法上の愛護動物であり、殺傷は犯罪
  • 経済的根拠:うさぎがいなくなれば観光客は来なくなり、地域経済が崩壊する
  • 倫理的根拠:人間が持ち込んだ動物を、人間の都合で殺処分することは道義に反する
  • 歴史的根拠:毒ガス実験のために持ち込まれた可能性がある動物の子孫を駆除することは、過去の過ちの上にさらに過ちを重ねること

この認識を社会全体で共有し、「駆除」という選択肢が議題にすら上がらない状況を作ることが重要です。

では、誰がうさぎを守るのか?

観光で恩恵を受けている者こそが、保護の責任を負うべき

うさぎがいなければ、この島に誰も来ません。

毒ガス資料館だけで年間40万人を集客できるでしょうか?答えは明らかです。うさぎは大久野島の、そして竹原市の最大の観光資産です。フェリー料金、休暇村の宿泊費、周辺地域の飲食・宿泊の経済効果——これらはすべてうさぎがいるからこそ生まれています。

それならば、観光収入の恩恵を最も受けている者が、その資産の維持管理を担うのは当然ではないでしょうか。

竹原市に求めること

  • 観光PRだけでなく、うさぎ保護への具体的な予算措置を講じてください
  • ボランティア団体との公式な連携体制を構築してください
  • 来島者への統一されたガイドラインを策定してください
  • 観光収入の一部を保護基金として積み立てる仕組みを作ってください

具体的な解決策——「大久野島ウサギ保護基金(エコタックス)」の提案

批判だけでは何も変わりません。私たちは具体的な仕組みを提案します。

うさぎ保護協力金(エコタックス)の導入

フェリーの乗船代や島内施設の利用料金に「数十円〜百円程度」の保護協力金を上乗せし、観光客から広く薄く資金を集める仕組みです。世界各地のエコツーリズムで採用されている実績ある方式であり、観光客一人あたりの負担はわずかですが、年間数十万人が訪れる大久野島では大きな基金になります。

集まった資金の活用先

  • 衛生的な給水設備の島内設置・維持管理
  • うさぎの専門知識を持つ獣医師チームとの連携・巡回診療
  • 怪我や病気の個体を隔離・治療するシェルター(保護施設)の整備
  • 防犯カメラの増設・維持費
  • 適切な個体数管理(避妊・去勢手術)の実施

「ブランド崩壊リスク」を回避するために

この提案は、単なる感情論ではありません。地域経済を守るための「リスクマネジメント」でもあります。

近年、世界中の観光客、特にインバウンド層は「動物福祉(アニマルウェルフェア)」に対して非常に厳しい目を持っています。怪我をして苦しむうさぎが放置されている現状が広く知れ渡れば、大久野島は「癒やしの島」から一転して「残酷な島」というレッテルを貼られ、観光地としてのブランドは致命的なダメージを受けかねません。

うさぎたちの恩恵を受けている企業や自治体、そして癒やしをもらっている私たち観光客が、少しずつ負担を分かち合うこと。それこそが、大久野島を真の意味で「人間と動物が共生できる、世界に誇れるエコツーリズムの島」へと進化させる唯一の道です。

環境省に求めること

  • 「半野生化」という曖昧な表現ではなく、愛護動物としての法的地位を明確にしてください
  • 水入れの撤去ではなく、衛生的な給水方法の提案と支援を行ってください
  • ボランティアの水やり活動を公式に認め、支援する立場を表明してください
  • 駆除ではなく共存の方針を維持し、それを明文化してください
  • 防犯カメラを十分に設置し、二度と虐殺事件が起きない体制を構築してください

現在のうさぎの命を支えているのは、有志のボランティア

行政が動かない中、島のうさぎを実際に支えているのは有志のボランティアです。

  • 約170ヶ所の水入れは、すべてボランティアが自主的に設置したもの
  • 毎日の水交換、容器の洗浄、食料の配布もすべて個人の善意
  • 怪我したうさぎの発見・報告もボランティアが担っている
  • 虐殺事件の犯人を捕まえたのもボランティア(写真家uta・中村夫妻)

この状況は持続可能ではありません。ボランティアの善意に永遠に依存する体制は、いつか限界が来ます。だからこそ、行政と事業者が正式な体制を構築する必要があるのです。

実際に動いている人々——希望の光

海外の先進事例——大久野島が学ぶべきモデル

「野生化した家畜を観光資源として活かしながら、動物福祉も守る」——この課題に直面しているのは大久野島だけではありません。海外にはすでに成功した先進モデルが存在します。

アメリカ・アサティーグ島の野生馬——避妊ワクチンによる個体数管理

メリーランド州のアサティーグ島には、数百年前に持ち込まれた家畜馬が野生化し、大久野島のうさぎと同じく人気の観光資源となっています。馬が増えすぎて島の植生を破壊し始めた際、国立公園局は駆除ではなく避妊ワクチン(PZP)の吹き矢による投与を導入。馬を傷つけることなく適切な頭数(約80〜100頭)に抑制し、観光と動物福祉の両立に成功しています。このプログラムはナショナルジオグラフィックでも取り上げられ、全米の野生動物管理のモデルとなっています。

アメリカ・マスタング——連邦法による野生馬の保護

アメリカ西部を走る野生馬(マスタング)も、元はヨーロッパ人が持ち込んだ家畜です。しかし「アメリカ開拓時代の象徴」として、1971年の「野生馬およびロバ保護法」により連邦法で手厚く保護されています。野生馬への危害は連邦犯罪です。人間が持ち込んだ動物であっても、文化的・社会的価値があれば法律で守られる——この前例は大久野島のうさぎにも適用できるはずです。

イタリア・ローマの猫——「生きた歴史的遺産」として法律で保護

ローマの古代遺跡に住み着いた野良猫たちは、トッレ・アルジェンティーナ猫保護区を中心に、市の法律で「ローマの生きた文化遺産」として保護されています。猫への危害は処罰対象であり、行政の支援を受けたボランティア団体がTNR活動と医療ケアを行っています。大久野島のうさぎも「島の生きた歴史的遺産」として同様の保護を受ける資格があるのではないでしょうか。

トルコ・イスタンブールの「コミュニティ・アニマル」

イスタンブールでは、街中の野犬や野良猫を「コミュニティの共有ペット」として扱う文化が根付いています。行政が捕獲してワクチン接種・不妊手術を行い、耳にタグを付けて元の場所に戻すTNVR(Trap-Neuter-Vaccinate-Return)プログラムが機能。街角には市民が餌や水を提供するステーションが設置され、社会全体で命を見守るシステムが実現しています。

対照的な事例①——奄美大島のノネコ管理計画(日本)

大久野島のうさぎと対比すべき日本国内の事例が、奄美大島のノネコ管理計画です。奄美大島には天然記念物のアマミノクロウサギをはじめとする貴重な固有種が生息しており、野生化した猫(ノネコ)がこれらを捕食して絶滅の危機に追いやっていました。

環境省は2018年に10年間のノネコ管理計画を策定。4億円を超える税金を投入し、山中のノネコを捕獲する事業を開始しました。2024年度までに4年連続で年間100匹以上を捕獲しています。捕獲されたノネコは譲渡先が見つかれば引き取られますが、期限内に譲渡先が見つからなければ殺処分となる制度設計です。

ただし、NPO法人CAIT SITHなどの民間保護団体が決死の保護活動を行い、2024年には累計譲渡数500匹を超える成果を挙げたことで、現時点では殺処分ゼロを維持しています。しかし、これは民間の努力によってかろうじて殺処分が回避されているのであり、制度上は殺処分が前提の設計です。

この事例が示す教訓は明確です。環境省は「固有種を守る」という大義名分があれば、愛護動物であっても捕獲・殺処分を含む管理計画を策定するということ。そして、動物の命を守ったのは行政ではなく、民間のボランティアと保護団体だったということです。

大久野島のうさぎの場合、幸いにも島の固有種を絶滅させる脅威とはなっていません。しかし、「保護責任」を環境省に押し付ける戦略は、奄美大島と同じ「管理計画=捕獲・駆除」の論理を呼び込むリスクがあることを、私たちは認識しておく必要があります。

対照的な事例②——オーストラリアのうさぎ駆除

さらに徹底的なケースが、オーストラリアの野生化うさぎの事例です。在来有袋類を絶滅の危機に追いやったため、ミクソマトーシスウイルスの散布という生物学的兵器による大規模駆除が実施されました。これは「固有の生態系を破壊する侵略的外来種」として扱われたケースです。

大久野島のうさぎは、オーストラリアのケースとは根本的に異なります。島の固有種を脅かしておらず、むしろ地域経済の柱として多大な恩恵をもたらしています。したがって、大久野島が目指すべきは「駆除」ではなく、アサティーグ島やローマ、イスタンブールのような「非致死的管理(Non-lethal management)」のモデルです。

大久野島を「世界に誇れるエコツーリズムの島」へ

観光客から少額の「エコタックス(保護協力金)」を集め、それを財源に獣医師チームを組織し、不妊手術の実施と負傷個体の保護シェルターを運営する——これが実現できれば、大久野島は「動物の搾取」から脱却し、人間と動物が共生する世界的なモデルケースになるはずです。

あなたにできること

  • 島を訪れたら、水を持っていってください。5リットルでも構いません
  • SOSマップを開いて、今どこに水が足りないかを確認してください
  • 水やりをしたら、SOSマップで報告して次の人に繋いでください
  • アンケートに回答して、あなたの声を形にしてください
  • この現実を、SNSで広めてください

餌やり禁止条例の可能性を論じる専門家もいれば、ナショナルジオグラフィックが島の問題を国際的に報じることもあります。多くの人が関心を持ち、声を上げることで、状況は必ず変わります。

🐰 あなたの1回の訪問が、うさぎの命を救います

大久野島を訪れたら、SOSマップを開いて
水が足りないエリアを確認し、水やり報告をしてください。

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