「うさぎの楽園」の裏側——大久野島の理想と現実のギャップ

「うさぎの楽園」——その言葉を聞いたとき、あなたはどんな景色を思い浮かべるだろうか。

ふわふわのうさぎたちが青々とした芝生の上を自由に跳ね回り、穏やかな瀬戸内海を背景に、笑顔の観光客がうさぎたちに囲まれている。そんな理想的な光景だろうか。

大久野島は、メディアやSNSで「うさぎの楽園」として繰り返し紹介されてきた。しかし、その「楽園」の裏側には、ほとんどの人が知らない現実がある。

メディアが描く「楽園」のイメージ

テレビ番組、雑誌、旅行サイト、YouTube——大久野島を取り上げるメディアは数多い。その大半が、同じような構図で島を紹介する。「約500羽のうさぎが暮らす夢の島」「うさぎに囲まれる至福のひととき」「一度は行きたい癒しスポット」。

映像には、丸々と太ったうさぎが観光客の手からペレットを食べる場面が映し出される。子うさぎが愛らしくちょこちょこと走る姿、日向ぼっこをしてリラックスするうさぎたち。BGMは穏やかで、ナレーションは終始にこやかだ。

視聴者はこう思う。「なんて素敵な場所だろう」「行ってみたい」「うさぎたちは幸せそうだな」と。

だが、その「幸せそう」は、カメラが映す一瞬の切り取りに過ぎない。

SNS映えが生む誤解

InstagramやTikTokには、大久野島で撮影されたうさぎの写真や動画が溢れている。どれも「いいね」を集めやすい、映えるコンテンツだ。うさぎが膝の上に乗ってくる瞬間、うさぎに囲まれて幸せそうな自撮り、寝転ぶうさぎの癒し動画。

こうした投稿を見て島を訪れる人は年々増えている。それ自体は悪いことではない。しかし問題は、SNSが島の「一面」だけを切り取って拡散し、もう一つの面——うさぎたちが直面している厳しい現実——を完全に覆い隠してしまっていることだ。

「映える写真を撮るために来た」観光客の中には、うさぎの体調や気持ちを顧みず、追い回したり、無理やり抱き上げたりする人もいる。うさぎはストレスに弱い動物だ。過度な接触は、うさぎにとって大きな負担になる。

「楽園」の裏側——慢性的な水・食料不足

大久野島のうさぎたちが直面している最大の問題は、慢性的な水と食料の不足だ。これは「楽園」という言葉からは想像もつかない現実である。

島にはうさぎのための給水設備が十分に整備されていない。うさぎたちの水分補給は、雨水、露、そして観光客やボランティアが提供する水に大きく依存している。特に夏場は脱水のリスクが高まり、毎年少なくない数のうさぎが熱中症や脱水で命を落としている。

食料も同様だ。観光客が多い時期には比較的潤うが、それでも島全体に行き渡るわけではない。港周辺やホテルの近くにいるうさぎは食料にありつけるが、人目につかない場所に暮らすうさぎたちは慢性的な飢餓状態にある。冬場は観光客が激減するため、島全体が食料不足に陥る。

怪我と病気——医療のない島で

大久野島には動物病院がない。獣医師も常駐していない。つまり、うさぎたちが怪我をしても、病気になっても、専門的な医療を受けることはできない。

島のうさぎたちの怪我の原因はさまざまだ。他のうさぎとの喧嘩による噛み傷、カラスに突かれた傷、鋭い草や廃墟の破片による切り傷。目に感染症を起こして片目が見えなくなっている子、足を引きずって歩いている子、耳がちぎれている子——そうしたうさぎたちが、治療を受けることなく島で暮らしている。

傷口が化膿して弱っていく子もいる。皮膚病が広がり、毛が抜け落ちて寒さに耐えられなくなる子もいる。人間のペットであれば、すぐに動物病院に連れていかれるような状態のうさぎたちが、そのまま放置されているのだ。

「楽園」では、傷ついた者もほったらかしにされる——それが現実だ。

「楽園」という言葉が問題を見えなくしている

ここで考えたいのは、「うさぎの楽園」という言葉が持つ力だ。この言葉は、島の問題を覆い隠すベールとして機能している。

「楽園」と名のつく場所に、深刻な問題があるとは思えない。「楽園」のうさぎたちが苦しんでいるとは想像しにくい。この言葉が先行することで、島の現実に目を向ける人が少なくなってしまう。

メディアも「楽園」というストーリーラインに乗っかる方が視聴率や閲覧数を稼げるため、問題を深掘りする報道は少ない。「かわいいうさぎの島」という枠組みの中では、「うさぎが苦しんでいる」という話は「空気を読めない」情報として排除されがちだ。

「楽園」を疑問視する声

しかし、近年では島を実際に訪れた人々の中から、「これは楽園ではない」という声が上がり始めている。ブログやSNSで島の現状を伝える人、ボランティア団体の活動報告を読んで衝撃を受ける人——少しずつだが、「楽園」の裏側に光が当たり始めている。

「楽園ではないなら、どうすればいいのか?」——その問いこそが、大久野島の未来を考える出発点だ。

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本当の楽園にするために必要なこと

大久野島を「見せかけの楽園」ではなく「本当の楽園」にするためには、何が必要なのだろうか。

まず、安定した水と食料の供給体制が必要だ。観光客の善意に頼る現状のシステムでは、季節や天候によって供給量が大きく変動してしまう。島全体をカバーする給水・給餌のネットワークを、ボランティアと行政が連携して構築していく必要がある。

次に、医療体制の整備だ。常駐の獣医師を置くことが理想だが、現実的には定期的な獣医師の巡回や、緊急時の搬送体制の確立から始めるべきだろう。怪我や病気のうさぎを発見した際の通報システムも必要だ。

そして、適正な個体数の管理。むやみに数を増やすのではなく、島の環境が支えられる適正な頭数を維持することが、すべてのうさぎの福祉向上につながる。避妊・去勢手術の推進は、そのための重要な手段の一つだ。

観光のあり方を見直す

観光客の意識改革も欠かせない。「映え」のためにうさぎを追い回すのではなく、うさぎの気持ちに寄り添った接し方を広めていく必要がある。

具体的には、適切な食べ物と水を持参すること、うさぎを無理に抱き上げないこと、追いかけ回さないこと、ゴミを持ち帰ること。これらの基本的なマナーを、フェリーの中や島の入口で明確に伝えるべきだ。

また、島を訪れる観光客に「ボランティア体験」の機会を提供することも効果的だろう。単なる観光ではなく、水場の補充や食料の配布を手伝ってもらうことで、島の現実を知り、うさぎたちへの理解を深めてもらえる。

一人ひとりの行動が楽園を現実にする

「うさぎの楽園」——その言葉を、嘘にするか、真実にするかは、私たち次第だ。

現状では、大久野島は楽園とは言い難い。水不足、食料不足、医療の欠如、怪我や病気への対応の遅れ。うさぎたちは「楽園」という看板の陰で、静かに苦しんでいる。

だが、これは変えられる現実でもある。一人がペットボトルの水を持っていけば、一羽のうさぎが一日を生き延びられるかもしれない。一人がボランティアに参加すれば、弱っているうさぎを救えるかもしれない。一人がSNSで島の現実を発信すれば、もう一人の意識が変わるかもしれない。

小さな行動の積み重ねが、「見せかけの楽園」を「本当の楽園」に変えていく。

理想と現実のギャップを埋めるのは、あなた

この記事を読んで、少しでも心が動いたなら、まずは大久野島のことを知ることから始めてほしい。そして、知った上で行動してほしい。島を訪れること、水や食料を持参すること、ボランティアに参加すること、周囲に島の現実を伝えること——何でもいい。

大久野島のうさぎたちは、「楽園」に住んでいるのではない。「楽園になりうる場所」に住んでいるのだ。その「なりうる」を「なった」に変える力は、私たち一人ひとりの手の中にある。

理想と現実のギャップを、一緒に埋めていこう。

🐰 あなたの1回の訪問が、うさぎの命を救います

大久野島を訪れたら、SOSマップを開いて
水が足りないエリアを確認し、水やり報告をしてください。

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