大久野島のうさぎが冬を越せない理由——寒さと飢えの中で生きる命

春の大久野島を訪れると、あることに気づく。冬の間に見かけていたうさぎたちの姿が、いくつか消えている。あの茂みの近くにいつもいた白い子は?あの坂道で日向ぼっこをしていた茶色の子は?

春になって桜が咲き、観光客が戻ってくる頃——大久野島のうさぎの数は、確実に減っている。冬を越せなかった命がそこにある。

瀬戸内海でも容赦ない冬の風

「瀬戸内海の島なら、冬も温暖でしょう?」——多くの人がそう思っている。確かに、瀬戸内海は日本の中では比較的温暖な地域だ。しかし、大久野島の冬を甘く見てはいけない。

島は海に囲まれており、遮るものがほとんどない。冬になると北西からの季節風が容赦なく吹きつける。気温は5度前後でも、風速10メートル以上の風が吹けば、体感温度は氷点下に迫る。人間でさえ凍えるような風の中を、体重わずか1〜2キロの小さなうさぎたちが耐えている。

島の建物の多くは廃墟だ。かつての毒ガス工場の遺構、使われなくなった施設——それらは風をしのぐシェルターにはなるが、断熱性はない。コンクリートの壁は冷たく、床も凍るように冷える。うさぎたちは身を寄せ合って体温を保とうとするが、それにも限界がある。

うさぎの体は寒さに強いのか?

「うさぎはふわふわの毛に覆われているから、寒さには強いはず」と思う人もいるだろう。確かに、うさぎの毛皮は優れた断熱性を持っている。しかし、大久野島のうさぎたちの多くは、毛並みが十分ではない。

栄養不足で毛が薄くなっている子、皮膚病で毛が抜けている子、怪我の治療を受けられず傷口から体温を奪われている子。健康な毛皮を維持するためには十分な栄養が必要だが、その栄養が慢性的に不足しているのだ。

特に子うさぎは深刻だ。秋口に生まれた子うさぎたちは、十分に成長する前に冬を迎えてしまう。体が小さいため体温の維持が難しく、脂肪の蓄えも少ない。冬を越すための体力が、そもそも備わっていないのだ。

冬の食料危機——消えるペレット、枯れる草

大久野島のうさぎたちの食料源は、大きく分けて二つある。一つは島に自生する草や植物、もう一つは観光客が持ち込むペレットや野菜だ。しかし、冬になると、そのどちらもが激減する。

まず、天然の食料が消える。島の草は冬になると枯れ、食べられる植物はほとんどなくなる。夏場は青々としていた芝生も、冬には茶色く枯れ果てる。うさぎたちは枯れ草や木の皮を齧って飢えを凌ぐが、栄養価はほとんどない。

そして、観光客も激減する。夏休みや春の行楽シーズンには多くの観光客が訪れ、うさぎたちにペレットや野菜を持ってきてくれる。しかし、冬の大久野島を訪れる観光客は夏の数分の一にまで落ち込む。フェリーの便数も減り、島はひっそりと静まり返る。

食料をめぐる競争の激化

限られた食料を巡って、うさぎたちの間で競争が激化する。体の大きな個体が食料を独占し、弱い子うさぎや高齢のうさぎは食べることができない。群れの中の力関係がむき出しになり、「かわいいうさぎの島」の裏で、生存競争が繰り広げられる。

空腹に耐えかねたうさぎたちは、普段は食べないものにまで手を出す。ビニール袋、紙くず、観光客が落としたお菓子の包装——それらを口にしたうさぎが消化不良を起こし、さらに体力を消耗するという悪循環に陥る。

冬の死亡率——春に数えると足りない命

正確な統計は存在しないが、冬から春にかけてうさぎの個体数が大きく減少することは、島を定期的に訪れる人々やボランティアの間では周知の事実だ。

死因は複合的だ。低体温症、飢餓、脱水、それらが重なった衰弱死。そして、体力が落ちた状態で病気にかかり、治療を受けられないまま命を落とすケースも多い。大久野島には動物病院がない。獣医師が常駐しているわけでもない。怪我をしても、病気になっても、自力で回復するしかない。

特に厳しいのは、1月から2月にかけての最寒期だ。この時期、島を訪れる人はほとんどおらず、うさぎたちは文字通り「自力で生き延びる」しかない。人間が持ち込んだ環境に依存して生きてきたうさぎたちにとって、人間がいなくなる冬は最大の試練となる。

高齢うさぎの苦闘

うさぎの寿命は、飼育環境下では8〜12年程度だが、大久野島のうさぎたちの平均寿命はそれよりもかなり短いと考えられている。過酷な環境の中で、3〜4歳でも「高齢」に分類されることがある。

年を重ねたうさぎは、若い個体に食料を奪われ、寒さへの耐性も低下する。足腰が弱って移動が困難になり、食料のある場所まで行くことができなくなる。そうした高齢のうさぎたちが、人目につかない場所でひっそりと命を終える——それが大久野島の冬の現実だ。

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冬こそボランティアが必要な理由

多くのボランティアは、気候の良い春や秋に活動する。もちろんそれも大切だ。しかし、うさぎたちが最も支援を必要としているのは、実は冬なのだ。

冬のボランティア活動は、うさぎたちにとって文字通りのライフラインとなる。定期的な食料の配布、水場の確認と補充、弱っている個体の発見と保護——冬に行うこれらの活動は、直接的に命を救うことにつながる。

「冬は寒いから行きたくない」という気持ちは理解できる。しかし、寒さを感じるのは人間だけではない。人間は暖かい服を着て、帰りにはフェリーで暖房のきいた場所に戻れる。うさぎたちには、その選択肢がない。

冬の訪問ガイド——準備すべきこと

冬の大久野島を訪れる際には、十分な準備が必要だ。以下に、冬の訪問で心がけたいポイントをまとめる。

防寒対策:島は風が強いため、防風性の高いアウターが必須。手袋、ニット帽、マフラーなどで末端の冷えを防ぐ。カイロも複数用意しておくとよい。足元は防水性のある靴がおすすめだ。

食料の持参:うさぎ用のペレット(ラビットフード)を多めに持参する。スーパーやホームセンターで購入できる。生野菜(キャベツ、にんじん、小松菜など)も喜ばれる。ただし、人間の食べ物(パンやお菓子など)は消化不良を起こすため与えないこと。

水の持参:冬でも水は重要だ。寒い時期でもうさぎには水分が必要。ペットボトルの水と、小さな容器(使い捨てのカップなど)を持参し、水場がない場所にいるうさぎにも水を提供しよう。

フェリーの時刻確認:冬はフェリーの本数が減ることがある。事前に時刻表を確認し、最終便に乗り遅れないよう注意する。日が短いため、明るいうちに活動を終えられるよう計画を立てよう。

春を迎えるうさぎたちのために

冬が終わり、春の暖かい日差しが島に降り注ぐとき、一羽でも多くのうさぎがその陽だまりの中で目を細めていてほしい。

そのためには、冬の間の支援が不可欠だ。寒さの中で震えているうさぎたちに、温かい食料と水を届けること。弱っている子を見つけたら、すぐに報告すること。一人の力は小さくても、多くの人が冬の大久野島に関心を持ち、行動することで、春に残る命の数は確実に変わる。

冬を越せなかった命を、これ以上増やさないために。あなたの力が、必要だ。

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