大久野島といえば、数百匹のうさぎが自由に暮らす「うさぎの楽園」として知られています。しかし近年、島を訪れるリピーターや研究者の間で「うさぎが減っている」という声が増えています。実際に個体数はどう推移しているのでしょうか。この記事では、大久野島のうさぎの個体数の変化、その原因、そして私たちにできることを詳しく解説します。
大久野島のうさぎ個体数の推移
ピーク時は700〜1000匹以上
大久野島のうさぎの個体数がピークに達したのは、2010年代半ばから後半にかけてのことです。SNSの普及とともに「うさぎ島」としての知名度が爆発的に高まり、国内外から多くの観光客が訪れるようになりました。観光客が持ち込むペレットや野菜により食料が豊富になり、うさぎの個体数は推定700〜1000匹にまで増加したと言われています。
この時期、島のあちこちでうさぎの群れが見られ、フェリー乗り場周辺や休暇村の芝生広場では数十匹が一度に集まる光景が日常的でした。メディアでも頻繁に取り上げられ、大久野島は広島県を代表する観光スポットの一つとなりました。
近年の減少傾向
しかし、2020年以降、個体数は明らかな減少傾向を示しています。新型コロナウイルスの感染拡大による観光客の激減が大きな転機となりました。観光客が減ったことで、うさぎたちの主要な食料源であったペレットの供給量が大幅に減少。さらにその後も、個体数の回復は十分には見られていません。
正確な個体数調査は定期的には行われていませんが、島を頻繁に訪れるボランティアや研究者の観察によると、現在の個体数はピーク時の半数以下にまで減少している可能性があります。特に島の北部や東部など、観光客があまり立ち入らないエリアでは、以前に比べてうさぎの姿がかなり少なくなっています。
個体数減少の原因
1. 食料不足
大久野島のうさぎが直面している最大の問題の一つが食料不足です。島の植生は、長年にわたるうさぎの食害によって大きく変化しました。かつて島に自生していた草本類の多くが食べ尽くされ、うさぎが食べられる天然の植物は非常に限られています。
観光客が持ち込むペレットや野菜に大きく依存する食生活が定着した結果、観光客数の変動がうさぎの生存に直結する脆弱な構造が生まれてしまいました。平日やオフシーズンには食料がほとんど手に入らず、弱い個体から順に衰弱していくという厳しい現実があります。
2. 水不足
意外に知られていないのが、島の深刻な水不足です。大久野島には自然の河川や湧水がほとんどなく、うさぎが自由に飲める水場は極めて限られています。ボランティアが設置した水入れや、雨水が溜まる場所に頼っている状態です。
特に夏場の水不足は深刻で、脱水症状で命を落とすうさぎも少なくありません。水は食料以上に生存に直結する問題であり、継続的な水場の維持管理が必要です。
3. 病気の蔓延
野生環境で暮らすうさぎたちは、さまざまな病気のリスクにさらされています。特に問題となるのが、うさぎ同士の接触で広がる感染症です。個体密度が高い場所では感染が急速に広がり、一度に多くのうさぎが命を落とすこともあります。
島には動物病院がなく、病気になったうさぎを治療する体制が整っていません。病気の個体が群れの中で過ごし続けることで、さらなる感染拡大を招くという悪循環が生じています。
4. 高齢化
うさぎの寿命は一般的に6〜8年程度ですが、過酷な野生環境ではさらに短くなります。ピーク時に生まれた世代が高齢化を迎える一方で、食料不足や環境悪化により新たに生まれる子うさぎの生存率が低下しています。出生数よりも死亡数が上回る状態が続けば、個体数は減少の一途をたどります。
5. 観光客減少によるペレット不足
皮肉なことに、うさぎの個体数増加を支えていたのは観光客が持ち込む食料でした。観光客数が減少すると、ペレットの供給も減り、食料をめぐる競争が激化します。体の大きな個体や攻撃的な個体が食料を独占し、弱い個体や子うさぎが十分な栄養を得られなくなるという格差が生まれています。
季節による個体数の変動
冬の死亡率の高さ
大久野島のうさぎの個体数は、季節によって大きく変動します。特に冬場は死亡率が顕著に高くなります。瀬戸内海に位置するとはいえ、冬の大久野島は冷たい海風が吹きつけ、気温が大きく下がります。
うさぎは寒さに比較的強い動物ですが、栄養状態が悪い個体は体温を維持できず、低体温症で命を落とします。特に秋から冬にかけて観光客が減少する時期と重なるため、食料不足と寒さのダブルパンチに見舞われるのです。
春になると出産シーズンを迎え、個体数は一時的に回復します。しかし、子うさぎの生存率は決して高くなく、カラスなどの天敵に襲われたり、十分な食料を得られなかったりして、生後数週間で命を落とす個体も多いのが現実です。
環境の変化がもたらす影響
植生の荒廃
大久野島の植生は、うさぎの食害によって大きく変化しました。地面近くの草本類はほとんど食べ尽くされ、うさぎが食べない有毒植物や硬い木本類だけが残るという偏った植生になっています。
植生が失われた地面は雨によって侵食されやすくなり、土壌の流出が進んでいます。これにより、新たな植物が育ちにくい環境が生まれ、食料不足がさらに深刻化するという悪循環に陥っています。
土壌劣化
うさぎが掘る巣穴も、土壌環境に大きな影響を与えています。島のあちこちに掘られた無数の巣穴は、土壌の構造を脆くし、斜面の崩壊リスクを高めています。また、うさぎの糞尿による土壌の富栄養化も進んでおり、本来の島の生態系とは大きく異なる環境が生まれています。
こうした環境の変化は、短期的には目に見えにくいものですが、長期的にはうさぎの生存環境をさらに悪化させる要因となっています。
個体数を維持するために必要なこと
継続的な食料と水の支援
現在の大久野島のうさぎは、完全な野生動物とは言えません。人間が持ち込んだ動物が繁殖した「半野生」の状態であり、人間の支援なしには現在の個体数を維持することは困難です。定期的な食料と水の供給、特にオフシーズンや悪天候時の支援が欠かせません。
適切な観光ルールの整備
観光客による不適切な餌やりや触れ合いも、うさぎの健康に悪影響を与えています。パンやお菓子など、うさぎの消化器官に負担をかける食べ物を与えることは、かえってうさぎの健康を害します。適切な餌の種類や与え方についての啓発活動が必要です。
情報共有の重要性——SOSマップの役割
うさぎの個体数や健康状態を把握するためには、島を訪れる多くの人々からの情報が不可欠です。怪我をしたうさぎ、病気の症状が見られるうさぎ、水場の枯渇、食料が不足しているエリアなど、現地で気づいた情報を共有することが、うさぎたちの命を守る第一歩となります。
SOSマップは、こうした情報をリアルタイムで共有するためのツールです。島を訪れた人が気づいた問題を地図上に記録することで、ボランティアや管理者が迅速に対応できるようになります。「あのエリアのうさぎが元気がない」「水入れが空になっている」といった小さな気づきが、うさぎの命を救うことにつながるのです。
一人ひとりの観察と報告が集まることで、島全体の状況を俯瞰的に把握できるようになります。個体数の減少に歯止めをかけるためには、こうした草の根レベルの情報共有が何より重要です。
まとめ
大久野島のうさぎの個体数は、確かに減少傾向にあります。食料不足、水不足、病気、高齢化、環境悪化など、複合的な要因が絡み合っています。「うさぎの楽園」という美しいイメージの裏側には、厳しい現実があることを知ることが大切です。
しかし、私たち一人ひとりにできることがあります。適切な食料を持参すること、正しい触れ合い方を守ること、そして島で気づいた問題をSOSマップで共有すること。小さな行動の積み重ねが、大久野島のうさぎたちの未来を守ることにつながります。
大久野島を訪れたら、SOSマップを開いて
水が足りないエリアを確認し、水やり報告をしてください。
仲間と一緒に活動したい方はボランティア掲示板へ
🗺 SOSマップを開く